「コンサルファームには豊富なナレッジがある」は本当なのか

コンサル業界

転職サイトなどに掲載されているインタビューなどで、「世界中の最先端のナレッジに触れられること」をコンサルティングファームへの転職を決めた理由としてを挙げている人を見ることがあります。大手のコンサルファームであれば、グローバルで様々なプロジェクトを請け負っており、それらのナレッジに触れられるというのは確かに魅力のように思えます。

しかし、入社する前のイメージとの落差にガッカリする人は後を絶たず、何を隠そう私もその中の一人です。実際にコンサルファームに蓄積されているナレッジは、本当に「転職の決め手」とまで言えるような代物なのでしょうか。

多くのファームで整備されているナレッジデータベース

大手のコンサルティングファームであれば、名称や運用の仕方は変われどプロジェクトのナレッジをまとめたデータベースを持っており、キーワードや部署、流行りのテーマと言ったもので世界中に散らばるプロジェクト資料や提案資料を検索することができます。これだけ聞くと、さぞ有益な情報がゴロゴロ転がっていて、一日中見ていても飽きないような代物になっているように思えるかも知れません。しかし、何か調べ物をしたいと思い立ってデータベースを叩き、これは参考になる!と思えるものに当たるのは多く見積もっても10回中2~3回程度で、他は骨折り損のくたびれ儲けに終わるように思います。私が実際に経験した複数のファームのどれも似たようなクオリティですし、また他のファームから来た複数の同僚も同じようにぼやいていたため、それほど的外れな意見ではないでしょう。

理由のひとつとして、いくら世界中のプロジェクト情報があると言っても、経営を取り巻く環境や、国ごとの法規制・商習慣が大きく異なる中で、自分が携わっているプロジェクトと同様の背景を持ったナレッジや過去プロジェクトはほとんど無いためです。例えば日本ではあまり導入が進んでいないがアメリカでは割とメジャーな経営施策について、アメリカの導入事例を調べてみても向こうからすると「導入が当たり前」過ぎて案外資料が無かったりします。では日本同様導入が進んでいない別の地域の事例ならどうか?と調べてみると、当該地域では法規制の関係でかなりトリッキーな導入の仕方をしており、全然役に立たなかったということがありました。

また、そもそも現在自分が携わっているプロジェクトが独特で、世界中どこを探しても実例が存在しない、といったケースもあります。カッコいい言い方をするならば、クライアントから寄せられるお悩みはどれも「一品モノ」であり、どんぴしゃ当てはまるような前例というのはそもそもあまり無いのです。

そのため、このようなナレッジデータベースに対して過度な期待を持って入社すると、肩透かしを食らったような気分になるかも知れません。

データベースよりもはるかに有用なもの

しかし、コンサルファームにはデータベースとは比べ物にならないような強力なアセットが存在します。それが「各コンサルタント」そのものです。

前述の通り、そもそもクライアントから寄せられらるお悩みは一点モノであるがゆえ、既存の類似事例などを参考にしながら新しいソリューションを作り出していかなければなりません。その時に何よりも力になるのが、その分野の経験を持ったコンサルタントと議論ができる環境にいるということです。どんぴしゃの正解は持ち合わせていなくても、これまでの経験からここまでは言えそう、確証はないがこういう仮説を持ってアプローチすれば有用な情報にたどり着けそうといったアドバイスは、大げさでなく「暗闇を照らす光」のように感じることがあります。

しかし、コンサルタントのソフトパワーの活用にもデメリットはあり、社内の有識者を探すのは意外と大変です。チーム内全員にメールを飛ばして有識者を探すといったこともファーム内ではよく行われていますが、たまたま有識者が受け取ったメールを読み飛ばしてしまう可能性もあります。そのため、日ごろから社内のネットワーキングを意識的に行い、どのコンサルタントが何を知っているのか、また社内に顔が効く人を押さえておくと言った地道な活動が重要になります。

協力的な社風かどうかは事前に確認を

またコンサルタントのソフトパワーの活用については、協力的でオープンな社風のファームと、やや閉鎖的で協力を取り付けるにも時間がかかるファームとがあるようです。私が在籍しているファームは幸いにも前者のため、大いに活用できる恵まれた環境にありますが、別のファームから転職してきた同僚は「以前は別チームの協力を仰ぐのにも色々と大変だった」とぼやいていました。この辺りは、転職前にどのような社風なのかをきっちり見極めることが重要です。